阪神・淡路大震災をきっかけに開発に着手
日本は“世界一の地震国”と言われていますが、大地震が起きると墓石が倒壊した映像がよくテレビから流れ、いつも胸が痛む思いをしていました。丹精込めて作られたお墓が無残に倒れているのは、ほんとうに見るに堪えませんでした。
石屋として、こうした地震からお墓を守るにはどうすればいいかを考えるなか、1995年(平成7年)に阪神・淡路大震災が発生し、お墓の地震対策に本格的に取り組むきっかけになりました。とにかく「お墓を守りたい!」という一心でした。
既存のお墓にも「簡単・迅速」に施工できるものを
開発に当たっては、新しく建てるお墓はもちろんですが、いま建っているお墓にも手軽に施工できることを第一に考えました。墓地や霊園のお墓を中心として、石灯籠や記念碑など、500年、600年前の古い石造物にも施工できる製品を目指しました。
もうひとつは、現場で施工する職人さんが手軽に扱えるものにすることでした。お墓の施工が一番多い夏の炎天下でも、簡単・迅速に施工できるものを開発のポイントにしました。また、低価格にこだわり、大型クレーンなどの重機を必要としないことも必須条件でした。
誰も手をつけなかった分野に挑み業界に一石
開発に向けて研究を続ける中、石屋の業界では「墓石が倒れると、修理や建て直しで儲かる」という誤った常識がまかり通っていました。それだけに、誰もお墓の地震対策に手をつけようとせず、むしろ避けられていた分野でした。
そんな分野に、敢えて取り組んだのは「顧客目線」を大切にしたいと思ったからです。もし私がお客さんとして顧客目線で考えると、安くて効果的な地震対策があれば、その石屋のほうを選びます。その違いは、お墓が倒れると儲かると思うような石屋と、お客様のことを思って1基でも倒さないようにと考える石屋の違いです。
釣具屋の重りでゲルの潰れ止めを解決
「安震はかもり®」で使っているゲル自体は、衝撃吸収材として以前からあったものです。家具屋さんや電気屋さんが、地震対策として家具やテレビの下などに使うようPRしていました。ある時そんなCMを見て、ふと「これをお墓に応用できないか」と思ったわけです。ところが、墓石は重いので柔らかいゲルは簡単に潰れます。潰れてしまうと墓石同士のクリアランス(すき間)が無くなり衝撃吸収性がゼロになってしまいます。
この問題を解決するためにはどうすればいいか、いろいろ模索しました。そして考えついたのが潰れ止めとして鉛の玉を入れることでした。当時は鉛もどこで買えばいいか分からず、釣具屋さんに行って大小ありとあらゆる種類の鉛の重りを買ってきました。そして何個も入れてみたり、使い方を変えてみたり、ゲルの厚みを変えたり、いろいろ試行錯誤を重ねました。
性能を検証するための耐震実験が大きな壁に
開発で一番大きな壁になったのが耐震実験です。当時、お墓の地震対策を開発しても原寸大のお墓で実験をしたところはありませんでした。やはり、一般ユーザーの方々、お寺様に納得していただくには、原寸大のお墓で実験をしなければ、机上の空論に近いものになってしまいます。ですから、実験は原寸大のお墓で行うことにこだわりました。
そうすると、こんどは実験を引き受けてくれる試験場が見つからない。試験場としては重い墓石が倒れて機械が損傷する恐れがあるということでどこも実験をしてもらえず、試験場探しにかなり苦労しました。現在は国の機関(UR都市再生機構)でやっていただけるようになりましたが、当初はほんとに困りました。
独自のノウハウが比類ない免震性能を実現
こうしていくつもの難問をクリアし、ついに墓石用免震ゲル「安震はかもり®」の開発に成功しました。
いま市場には「安震はかもり®」の類似品や粗悪品が出回っていますが、カタチだけ真似をしても正しい使い方をしなければ効果はゼロです。「安震はかもり®」は変形追従性を備えた専用接着剤「安震アイバ」との組み合わせから生まれる比類ない免震性能が特長であり、他社が真似の出来ないところです。この「安震アイバ」が“シートベルト”、「安震はかもり®」が“エアバッグ”のような役割を果たし、地震に強い本物の“安心”を生み出しています。
急増している「安震はかもり」の施工実績
「安震はかもり®」は発売以来ご好評をいただき、2010年の施工実績は年間約13,000基でした。ところが、今年は3月に発生した東日本大震災により、被災地で倒れたお墓の復旧に使われることになり、ゲルの販売数だけ見ても昨年の2倍くらいになっています。
従来のように墓石を載せてセメントで施工したり、接着剤を付けたくらいの復旧工事では大きな余震が来るとまた倒れてしまいます。そうした問題から、早く手軽に施工できる「安震はかもり®」の免震性能が注目を集め、2011年7月末には施工実績が80,000基を超えました。
テレビ番組をきっかけに京都や奈良の有名寺院に
一方では有名寺院への施工実績も増えてきました。きっかけは2007年(平成19年)5月に、当社と「安震はかもり®」がNHKのテレビの取材を受け、朝の情報番組「おはよう日本」で紹介されたことです。
このことを、石屋として古くからお付き合いのある京都の大徳寺様に報告に行ったところ、「そんないい製品があるなら大仙院にも」ということで、歴代のご住職のお墓に施工させていただいたのが最初です。その後、額安寺様、世界遺産の奈良・元興寺様の石灯篭、同じく世界遺産の比叡山延暦寺様の石灯篭とつながっていき、有名寺院での施工実績が増えていきました。
施工実績を増やした経済産業省による認定
有名寺院に施工実績が増えたのには、もうひとつ理由があります。それが経済産業省により「地域産業資源活用事業計画」として2009年(平成21年)7月に認定を受けたことです。認定を受けると、PRにも使える補助金が交付されるため、有名寺院の施工に使うことでそのお寺様には費用の負担がかかりません。
特に有名寺院は多くの参拝者が訪ね、万一、石灯籠が倒れるとたいへん危険です。そのための安全策を、お寺様が費用を負担することなく講じられるので、施工したお寺様の紹介でさらに有名寺院の施工実績が増えました。
「安震はかもり®」で日本古来の石文化を後世に
先日、東北の被災地を回ってきましたが、中途半端なお墓の地震対策はみんなが不幸になると思いました。被害にあったお客様は困るし、施工をした石屋さんも「大丈夫と言っていたのに」と訴えられて廃業に追い込まれたケースもあるようです。
また、今回の震災では倒れた石灯籠などは撤去されてしまう例が多く、石文化の衰退につながる危機感を持ちました。とくに、当社のような製品があることを知らずに、多くの名品が撤去を余儀なくされています。
今後、日本古来の石文化を後世に伝えていくという意味でも、もっと多くの方々に「安震はかもり®」を知っていただければと願っています。
「樹苑®」を全国各地に展開
「樹苑®」は神社が主体となった樹木葬導入のブランド名です。
今後、「樹苑®」を全国各地に展開いたします。興味のある方は、お問い合わせください。